ムコ多糖症にかかわる遺伝子の変化
- ムコ多糖症は遺伝子の変化が病気にかかわっています。
遺伝子はヒトの細胞の核の中にあるDNAという細長い物質の上に存在します。DNAは、通常はヒトの細胞の核の中で、ヒストン八量体(タンパク質の一種)に巻きつき、数珠状に連なった状態で細胞の中に分散して存在していますが、細胞が分裂する時に太く凝縮し、染色体の形になります。染色体ごとに含まれる遺伝子の種類も数もさまざまです。
ムコ多糖症は、染色体上にある遺伝子の1つ、酵素をつくる遺伝子の変化が原因となって起こります。
- ヒトの細胞には、2本ずつの対になった23対(46本)の染色体があり(図3)、このうちの22対の染色体は男女ともに同じで、「常染色体」と呼ばれます。残りの1対は男女で異なっており、「性染色体」と呼ばれます。男性にはX染色体とY染色体が1本ずつ、女性にはX染色体が2本あります。
ムコ多糖症の遺伝子の変化は、ムコ多糖症Ⅱ型とそれ以外の型で異なります。ムコ多糖症Ⅱ型は、性別を決めるX染色体が関与し、それ以外の型は、常染色体が関与しています。
図3 ヒトの染色体(男性)
ムコ多糖症(Ⅱ型以外)の遺伝子の変化と伝わり方(常染色体潜性遺伝(劣性遺伝))
遺伝子の変化と症状の現れ方
- ムコ多糖症Ⅱ型以外のすべての型は、常染色体上にある遺伝子の変化が原因で起こる病気で、「常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)<じょうせんしょくたいせんせいいでん(れっせいいでん)>」と呼ばれる形式で遺伝子の変化が伝わります。
例えば、ムコ多糖症Ⅰ型では、α-L-イズロニダーゼという酵素をつくる遺伝子の変化が原因で起こります。α‐L-イズロニダーゼの遺伝子は、4番染色体に存在します(図4)。常染色体は2本ずつあるため、片方の遺伝子に変化があっても、もう一方の遺伝子に変化がなければ役割を果たすことができ、ムコ多糖症Ⅰ型の症状は現れません。このような「変化のある遺伝子」を1つもっていても症状が現れない人は「保因者<ほいんしゃ> (キャリア)」と呼ばれます。
α‐L-イズロニダーゼ遺伝子2つともに変化があると、必要な役割を補うことができないため、ムコ多糖症Ⅰ型を発病します。他の病型でも同じように2つともの遺伝子に変化があった場合に発病をします。
図4 ヒトの染色体とα‐L-イズロニダーゼ遺伝子の場所(ムコ多糖症Ⅰ型の場合)(男性)