成長を見守る―小児科の原点に立ち返る
- 医師が患者さんに教えられることは少なくありません。特に小児科の場合、成長という大きな変化要素が加味されます。そのことを学んでいくことが、小児科学の原点です。
あるポンぺ病の患者さんも、医学的な面、成長発育という両面から教えられることが多かった方です。
- まず医学的な面ですが、それまでのポンペ病に関する私の認識は、新生児期から乳児期に心不全などの重い症状を発症し、早い段階で亡くなってしまう、あるいは成人の患者さんも車椅子、人工呼吸器が必要になる、というものでした。ところが、出会った当時、すでに中学1年生だった彼女は、一見どこが悪いのかわからない、普通の女の子でした。少しわがままなところはありましたが、受け答えもしっかりしていて、「こんなポンペ病患者さんもいるのか」と驚かされました。
- 成長発達の面からは、9歳から治療を続けていますが、最初の頃こそ、点滴のときにお母さんにすねてみたり、涙を見せたりしていましたが、お母さんの自立を促す言葉に励まされつつ、治療の重要性を理解するように成長していきました。
- 高校生になってからは土曜日の午後に一人で治療に来るようになり、2週間に1回の長時間の点滴を学校の授業に差し支えないように予定を組むなど、治療にも積極的に関与するようになりました。しかも、患者会などを通して、自分の存在が他の患者さんの励みになっていることに気が付いたようです。ご両親の方針もあり、「自分でできることは一人でやる」という姿勢は素晴らしいと思います。体育の授業でダンスをがんばったり、マラソンでなんとか完走したり。点滴の合間にそんな話をしていると、成長を見守ることができる幸せを感じますね。
- 「自分の状態から同じ病気の患者さんに希望を持ってもらえれば」と、疾患の啓発にも参加していきたいと話していました。高校生という多感な年代を病気に負けることなく、外の方向へも目を向けることができるまでに成長した姿を見られたことは、小児科医冥利に尽きると思います。
※この内容は2018年11月30日時点のものです。