患者さんとご家族へのメッセージ

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患者さんとご家族の声

患者会の存在が心の支えに

もちろん初めて聞く病名だった。「あなたは進行がゆっくりだから、これからも急に悪化することはないだろう」と医師。だがその言葉、Kさんには「気休め」にしか聞こえなかったという。極めて症例の少ない病気である。それは理解できた。しかし「今の段階では治療法がない」という説明は、自分に向けられたものとして受け入れられなかったのだ。
「資料も少なく、大型書店の医学書コーナーで見つけたのもほんの数行の説明でした。そこには、成人型ポンペ病は30~40代で呼吸不全のため死に至ることが多いと。当時、私は30代後半だったので、あと5、6年なのか……。まだ手すりを使わず階段の上り下りはできましたが、治療法がなかったため、とても前向きには考えられませんでした」
そんなKさんの支えになったのが、2001年に発足したポンペ病患者会だった。それまでは主治医とのタテの関係で完結していたものが、同じ病気と闘う患者、その家族とのヨコのつながりができたことで、情報交換を含めて世界が広がった。患者会にはKさんより年上の患者さんも在籍していたため、自分の未来に小さな光が差し込む気がした。

待ち望んでいた治療を開始

小さな光が、大きな希望の光へと変わるのに時間はかからなかった。日本で患者会が発足して間もなく、海外でポンペ病治療薬の開発が進んでいることを知らされたのである。日本でも、その治療薬ができるだけ早く承認されるように、患者会でも活動を行った。
「酵素補充療法の治療薬が日本で承認・発売されたのは2007年ですが、ポンペ病と診断後に精密検査を受けた東京の大学病院で治療研究を行われていた先生方のお力添えがあり、私は幸運にも、その前年から治療を受けられるようになりました。ポンペ病と診断されてから約8年、治療薬の存在を知ってから約4年。長かった……。振り返ると、その言葉しか出てきません」
酵素補充療法を始めてから12年目を迎え、現在の症状はどうなのだろう。率直にたずねると「進行が遅くなったと感じています」。その言葉を裏付けるように、「以前はおなかだけの浅い呼吸だったが、肺で深く呼吸できるようになりましたね」と主治医から言われたという。症状が進むと呼吸が困難になり、酸素吸入器が必要になることが多いため、「呼吸機能が維持されているのはありがたい」とKさんは笑顔を見せる。
今も学校での勤務は続け、授業で使う教材のデジタル化、ソフトウエアのインストールなど、授業のサポート的な業務を行っている。学校には患者会の活動を始めた頃に病状を伝え、理解してもらっている。教壇にも2012年まで立っていた。
「自分としてはもう少し教壇に立ち続けたかったし、続けられると思っていました。でも、まわりに必要以上の心配、負担をかけるのは本意ではなかった。未練がないといえばウソになります。でもこれからも、可能な限り仕事を続けたいし、状況が許せば、クラブ活動などで活躍する生徒たちの応援にも行きたい」

※この内容は2018年11月30日時点のものです。